早鐘のような心拍を隠すのが精一杯で、そもそも「言ってごらん」と言われて「はいそうですか」と告げることのできる内容ではない。
「ずいぶんと、お優しいのね」
華恩が鼻で笑って貶す。だが陽翔が態度を乱す事はない。
「俺は女性には優しいよ」
「あら? じゃあ私にも、もう少し優しくして頂けない?」
「副会長という立場に理不尽な不満を抱くような人間、俺が優しくしてやる必要はないんじゃないのか?」
陽翔の言葉にムッと口を歪め、緩を睨む。
山脇くんの事、言うんじゃないわよっ!
視線に脅され、緩は逆に視線を落とす。その仕草に、陽翔は瞳を細める。
「そんなに怯えることはない。大丈夫、俺が金本さんを――」
そこでハッと言葉を切り、しばし思案し、今度は探るように瞳を覗く。
「金本…?」
顎に添える指がなんとも上品だ。これも、英国留学の収穫か?
「そう言えば、春に金本という名の転入生が来たらしいね?」
しばらくの後に問われていると気づき、緩は慌てて強く頷く。
「まぁ よくある苗字ではあるけれど、まさか知り合い?」
「あ… 兄です」
認めたくはない。口に出したくはないと思いながら、だが答えざるを得ない。
「兄?」
「義理の…」
言いよどむ緩を察し、陽翔は あぁ と、納得する。
「聞くところによると、ずいぶんと好感の持てる子だそうだね」
「はぁ」
気に入らない。
「羨ましいね」
「はぁ」
冗談じゃない。
「俺はクラスが違うから、まだ姿を見ていないんだ。できれば今度、話をしてみたいな」
それは暗に求めている。
「兄に、話してみます」
「そうしてくれると嬉しいよ」
苦虫でも噛み潰すかのような緩の表情には気づかないのか、陽翔はうれしそうにニッコリと笑い、そうしてふと首を傾げる。
「そう言えば、確かもう一人転入生がいるようだね。えっと… 山脇とかって」
瞬間、場の空気が硬直する。さすがの陽翔も不審に思う。
「何?」
「なんでもないわっ!」
明らかに不自然だろうと思われる華恩の言葉に、陽翔はしばし呆気。
「何だよ?」
「なんでもないわよっ」
失敗したと後悔するも、いまさらヘタなごまかしはかえって逆効果。
「それより何よ?」
逆に聞き返す常套手段。
「その山脇… くんが、何?」
「何って」
不自然に視線を逸らせる周囲を訝しく思いながら、首を捻る陽翔。
「俺はただ、もう一人の転入生もなかなか女子に人気のある生徒のようだから、一度会ってみたいなと思っただけなんだけど」
「ホントッ!」
思わず立ち上がる華恩に、陽翔はもう目を丸くする。
傍らの女子生徒に声を掛けられ、ハッと我を取り戻す華恩。自らの行動をどう説明すればよいのか。忙しげに視線を泳がせながら、必死に言い訳を考える仕草。余計にマズい。
「もう、無理でございますよ」
無様に焦る姿を痛ましく思ったのだろうか? それともただ場の雰囲気に耐え切れなくなっただけだろうか? 華恩にごく近い女子生徒が意を決して口を開くと、華恩は開き直ったようにドンッと椅子に腰を下ろした。
「何?」
なんとなくは状況を把握しつつも、はっきりとは理解できていない陽翔の問い掛け。
だがこの期に及んでもまだ素直に口を開かない華恩に変わって、女子生徒が除に口を開く。
「華恩さん、山脇くんの事が…」
その先を言い難そうに濁す態度。陽翔は顎をあげた。
緩を覗き込むように屈んでいた身をゆっくりと伸ばし、面白そうに眉をあげる。
「なるほど」
右手の甲を腰に当てる。
「女王様は、年下にご執心か」
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